コラム
厩務員・調教師・ジョッキーの佐藤ママ
一人三役(厩務員・調教師・騎手)の佐藤ママ{サトウファーム}
東大生のご家庭を特集した雑誌『プレジデントファミリー』など、また、3月のワイドショーなどで取りあげられる東大合格者のご家庭を観ていると、みな、“幸せ”なご家庭であるという点が顕著な特徴である。そして、そこそこ、豊かである、裕福そうな背景が垣間見られるのである。そして、最低限度、小学校、そして中学校などで、やるべき勉強の事柄を踏み外すことなく、親の目の届く範囲内で勉学をやってきた。そうした穏やかな日常、波風立たない家庭、そして勉強への親の程よい手綱さばき、子供の勉強への意識が邪魔されない環境の中にいたということが必須の条件でもある。ここが第一の条件である。つまりは、勉強する環境に恵まれていたということでもある。
そこに、進学校の中高一貫校、または、公立高校のカリキュラム、通っていた塾・予備校などが‘おまけ’の如く加わってもいる。今放映中の『ドラゴン桜』(TBS)の登場人物の高校生は、皆不幸なるバックグラウンドがある。環境の不如意にがんじがらめとなってもいる。しかし、幸いなるかな、彼らの間には令和に珍しい‘友情’というものが芽生えている。また、あんな“口は悪いが心が良い”桜木という教師も現生には存在しない。非リアルである。番組でテロップで映し出される<東大受験の勉強法>が超リアルなのと対照的に、ドラマの登場人物達のなんと非リアルなこと!
鉄緑会のエリート中高一貫校生が中学三年間で普通の高校生がやるべき内容を終了、高校三年間は東大の過去問を必死に解くことを鍛錬する勉強など鑑みると、この『ドラゴン桜』の非現実性は否定しがたいが、『半沢直樹』流のドラマ人間模とは同様に真実味を突いてもいて、視聴者を増やしているのだろう。
佐藤ママ(佐藤亮子)の、子供四人を東大理Ⅲに入れた教育なども、まず幸福なるご家庭、そして、<勉強するという孵卵器>に我が子を入れる。生まれた時から、“英才教育”で育ててきた。その佐藤ママのジョッキーぶり、‘ダービー4冠馬’を輩出した教育実験家の面目躍如であろう。彼女は、駿馬か駄馬だかしれないが、我が子というサラブレッドを、厩務員から調教師、そして、ジョッキーの一人三役をこなしてきた‘孟母’である。恐らく、父方は東大卒の弁護士という血統は十分満たしている。また、自身が英語教師であったバックボーンも好都合に働いてもいる。こうした専業‘孟母’主婦の芸当は、普通のご家庭ではまねできない。これは、カリスマ現代文講師出口汪氏の弁だが、佐藤ママは、幼稚園に入る以前に、我が子に一万冊もの絵本の読み聞かせをしていたという。そして、幼稚園で、簡単な漢字や、算数の計算など公文式で学ばせ、小学校3年で中学の数学3年までを終了させていたともいう。これぞ、マンガ『2月の勝者』のコンセプトではないが、中学受験の要諦は「受験の9割は母親」を地で行く猛母(孟母三遷)でもある。
雑誌『アエラ』{2021年6月7日号}での彼女の発言は、きれいごと、まっとうなこと、理想的なことなどなどを、食傷気味に語ってもいた。当然である。理想的ともいえる幼児から初等教育に成功{3人の息子を灘へ、1人の娘を洛南へ}していれば、中等教育もこの猛母なら、当然順調にゆくに決まっている。勝てば官軍、どろどろした土臭いことは隠し、綺麗で理想的なことはいくらでも言える。『二月の勝者』という中学受験を題材としたマンガのコンセプト、いわば「受験は、父の財力と母親の狂気!」を佐藤ママがものの見事に地で行き、それをものの見事に証明してくれてもいる。
その4人が果たして、その後、標準的な医師になるか、凡庸なる医師になるか、まず、須磨久善、天野篤、新浪博士、三角和男、坪田一男、吉岡秀人など『プロフェッショナル』(NHK)や『カンブリア宮殿』(テレ東)で取りあげられるスーパードクターにはまずなれまい。それだけは断言できる。なぜなら、彼らは、十代に、幸福で、何不自由なく勉強のみの勝者となった。環境上の“不如意”がないからである。人生の未成年期における、勉学には、無駄、遠回り、挫折などなく順調に、幸せななるご家庭で育った人間には、<野生の知>は身についていないからでもある。平成以降の官僚がものの見事にそれを証明してもいる。もちろん、政治や社会情勢も原因であることは断ってもおく。