コラム
附属校の英語新試験制度導入から思うこと
附属・系列高も英語新試験導入(朝日新聞2019年9月29日付け)
大学附属や系列の高校でも、新たな民間試験を導入する動きが出ていることを朝日新聞は報じていました。
英検やらGTECやら、TOEICやTOEFLなどをその附属・系列校の生徒に課す高校が朝日新聞のアンケート調査で判明してきた模様です。
こうした大学附属系の高校で資格系民間試験を受けさせることは、これといって別に全く支障はない。なぜなら、それぞれの民間試験を受けさせ、英検なりGTECなり同一のものを同一の高校が受験する、それも、一種、自動車教習所の卒業検定試験のようなもので、免許を取得するための国家試験の腕試し程度で、何のプレッシャーも、何の不安もないメンタルで受験し、ある程度の基準をパスしさえすれば、それでひとまずOKサインがでる代物、その程度の安楽な試験です。その附属校で受験した民間試験が、「A君は英検だから、B君はTOEFLだから」とそれぞれ比較され、内部進学の査定にあれこれ影響してくるものでもないからです。人気学部進学に若干英語は影響されましょうが、他の科目(数学や理科)も当然評価の対象とされるからです。
附属校の、ある意味、“ゆとりの英語授業”と、民間資格系試験の組み合わせは、むしろ、中堅私大附属校(MARCHレベル以下の学校)では、生徒の英語(能力ではなく若干のやる気)の底上げ現象をもたらす可能性が大でもあります。つまり、学校の授業が本来当てにならない、自身で英語の参考者・問題集などやらざるを得なくならからです。適当に定期試験範囲を丸暗記して、適当に点数を取りさえすれば上の大学に進めるという温室的環境から一歩でも外へ足を踏み出さざるおえない状況に追いやるからです。MARCHレベルの附属校は、こんな民間試験を生徒に課しても課さなくても、従来の英語の能力並びにやる気度に関しては同レベルにとどまるものと予想されます。なぜらば、少子化により、附属校の生徒の質・能力も従来より下降線を辿っているからです。その劣化の予防策・サプリ程度にしかこの民間試験は役割を果たしません。その大学の“しゃべれる学生”の数の増加など微々たるものです。
①<一般入試の大学受験のプレッシャーがあり英語を勉強する高校生>と、②<ある程度の定期試験にパスしさえすればその大学に進学できる高校生>、即ち、①<非附属校の高校生>と②<附属校の高校生>、その学習上のメンタルの違いを熟知している方(聖光学院・桐蔭学園と慶應普通部・法政二高の男子生徒を教えた経験のある塾講師ならご存じのはずです)なら、①<今般の大学入学共通テストで様々な民間試験を受験し、その点数をSEFRという基準で審査される、その不安・重圧>と②<学校からせめて英検2級を取っておきなさい、GTECを受験しなさいと学校当局から申し伝えられる附属校生の心理・気持ち>といったものは天と地の開きがあります。
大企業の創業者の孫が、新人でその企業に入社して、泥臭い、きつい現場(店頭販売・作業服を着た油くさい工場作業)経験を数年するそのメンタルと、その一族とは全く縁もゆかりもない学卒の新人が、何年現場で、うざい上司と一緒に外回り、お得意さん回りの営業やら、ノルマを課される販売業務を数年するメンタルとの違いといってもいいでしょう。その御曹司の新人は、黙っていても数年後、部長か取締役に引っ張り上げられる運命をもっているメンタル上、しんどい現場修行など先がはっきと見える我慢期間にすぎません。それに対して、数百人もいる新入社員の一人の自身が、数年厳しい現場の仕事に耐えたとしても、5年後、10年後、係長、課長、そして部長に進める保証は全くない身分で、その、先の見えないトンネルという苦難の現場に勤しむメンタル、それといったら、まさしく、上に大学のない聖光学院や桐蔭学園の高校生のそれでもあるのです。こうした、附属校、系列校の高校生が、資格系民間試験を受けることと、大学のない中高一貫校の高校生が、センター試験の代替試験として、それも複数回、複数の民間試験をうけるプレッシャーや不安といったら比べ物にはなりません。
その記事に載っている一部の附属系高校の、民間試験を内部進学の判断材料にしているか(○)、否か(✕)のものです。
早稲田大本庄高等学院 ✕
慶應志木 ✕
ICU ✕
明治大付中野 ○
立教池袋 ○
中大付 ○
こうしたことからもわかるように、MARCHレベル以下の中堅私大附属校(桜美林・関東学院など)では、恐らく、◎の評定が出されていることでしょう。
桜美林高校や関東学院高校などは、これから、神奈川大付属、東京都市大付属、国学院久我山レベルに、神奈川大附属や東京都市大付属は、白百合学園、フェリス女学院レベルに、外部受験重視進学校へシフトしてゆかざるを得なくなるでしょう。少子化と大学全入時代の到来で、大学倒産、そして、その防衛策として、中学校から、小学校から、それぞれ優秀な子供のぶんどり合戦が始まっているからです。こうした現象をもろに証明してもいる宣伝広告が横浜市営地下鉄のドアに貼られたステッカーの文言です。以下の通りです。
国公立コース新設:目指せ!東大・京大・一橋・東工大
桜美林高等学校は、国公立コース・特別進学コース・進学コースの3コース制に変わります
どれほど、もう、内部進学で桜美林大学に進学する高校生がいないか、いたとしても、高校の成績が最下層にいる生徒であるか、また、どれほど、自校の中等教育のレベル低下を招いているか、その現状の必死の防衛策の証拠でもあります。「附属は、あってもないに等しいですよ、当校の目指す方向性は、白百合やフェリス路線ですよ」と大っぴらに公言しているようなものです。
塾業界、教育産業界にしても、サピックスは、幼児英才教育<サピックスキッズ:幼児こぐま会と提携>と謳い優秀な幼児の“青田買い”をしています。ベネッセにしては、赤ちゃんから幼児教育<しまじろうなど>はもちろんのこと、英検やTEAPなど国内の民間資格試験に負けてなるものかの勢いで、GTECの今般の新テストは社運をかけて参入してきた模様です。会社の総力を挙げて英検の受験者数に追いつき追い越せをスローガンに営業しているのは明々白々です。まるで、ポテトチップスのカルビー(売り上げ断トツナンバーワン企業)の売り上げを追い続ける湖池屋の如きにGTECは見えてきてしまいます。