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<小1:漢字=中1:英単語>の関係を心得るべし

 人里離れた、名刹の禅寺では、今も修行の一環として、掃除の際は、掃除機ではなく箒を使用し、食事の時は、電気釜ではなく、薪と窯で飯を炊く。宗教とは、文化の象徴でもあり、人間生活の、ある意味“糧”でもある。その文化の総本山は、頑なに文明の利器を近寄せない。人間本来の精神性を不変のものとして維持してゆくのも、精神と身体とは不可分の関係、これぞ律の修行の一環とされているからでもあろう。
 
 本コラムで4,5回にわたり<努力と精進>の違いを語ってもきた、その文脈でいうと、合理性、効率性というものから、どれだけ無駄や不便さ、時に不快なるものを排除した環境で行うひたむきさ、それが令和の努力ともなっているようです。令和の努力の分母には、コスパとタイパという意識が基盤になってもいると指摘した所以でもあります。
 
 弊塾で、中2、中3で入塾してくる生徒の、三者面談の際に気づくことですが、月曜から日曜まで、また、1月から12月まで、その英単語は読みと意味は言えるのですが、綴りが半分近くが、きちんと書けない中高生、英検3級、準2級ホルダーがいかに多いか、そうした実体に、平成以降の、学習環境、学習方針といったものに暗澹たる思いに陥ってしまう現況を吐露しなければなりません。
 
 このコラムでも、数カ月前、どれほど“英検というシステム”{文科省・大学・高校・中学・小学校・親が推進し、現場中高生が、“英語検定協会教”に入信している現実}が、何と用をなしていないか、それと同類の悲惨な状況が、学校英語教育を蝕んでもいるのです。
 
  これは、食品などに関して厚生省が、基準・認証など審査を厳格化すればするほど、大衆にとっては、ありがたい、健康的な食品が市場に出回る論理とは真逆の現実、即ち、文科省などが、生徒指導や英語検定など、基準・奨励などをすればするほど、現場の中高生の学習メンタルや英語の実力(アナログチックな、読み・書くといった基本的能力)というものが、脆弱化してもゆく皮肉な結果となっている現象は、英検迎合主義{高校の教師は大学で推薦には、「英検2級以上が必要なので、まず取っておきなさい」と指導する、すると現場高校生は、その英検準1級でも取ろうものなら、もうそれ以上は努力しない風潮}・デジタル推進派の現場の教師には、見えてもいない危機的現実でもあろうかと存じます。
 
 令和っ子は、まず紙の辞書など、ほとんど買わない、持ってもいない、もし持っていたとすれば、兄や姉、時には父母のおさがりの英和辞典であります。平成半ばくらいまでは、電子辞書が主流になっていきました。今ではそれすら購入せず、スマホの辞書機能を使って英単語を調べるありさまです。丁度、禅僧が箒(紙の辞書)ではなく、掃除機(電子辞書)、いや、お掃除ロボットルンバ(スマホの辞書機能)を使用しているといっていい状況です。
 
 小学生の頃から、スマイルゼミ、ECC子供英会話スクール、公文式英会話教室などの延長線でしょう、まず、タブレット端末、スマホなどで、音声重視の英語のデジタル環境に浸っているせいか、中学からの鉛筆、シャーペンによる文字を書く行為を軽視、行わなくなってもきている現実がある。こうした実体が、筆圧の弱さによる、薄い、かすれたような読みに文字にも反映されている証拠でありましょう。
 
 中3や高1くらいで、英精塾に入ってくる際の面談で、ろくすっぽ、月や曜日の英単語の綴りが書けない、その親子に次のように諭すのです。
 
 君が、小学校1年生で、初めて漢字を習う、その低学年では、あのジャポニカ学習帳に、森とか海とか親とか、そういった文字を手のひらの小指の下の方が黒くなるまで何個も何十個も手を動かしながら覚えたでしょう?それと同じ行為を、中学1年で初めて出会う英単語というローマ字表記とは別次元の外国語を覚える際に、コツコツとアルファベットのペン習字帳に何個も、何十個も書いて覚えなければならないんだよ。丁度、比の関係でいえば、こうです。
 
<小1:漢字=中1:英単語>
 
このように、アナログチックに、手の労力を惜しんでは、新たなジャンルの知識、とりわけ、漢字(文字)というものは習得できないものなのです。
 
 この面談での、お説教を耳にして、その生徒の母親や父親は、その通りだと納得してくださるのですが、その本人は、何を言われているのやら、キョトンと不明な顔をしている現実が、事の重大さを物語ってもいましょう。
 
 これは、世の中のデジタル化の責任にはありません、未成年の、12才の保護者の責任でもありましょう。肉体的成長の著しい、それも脳の領域であります、その時期に、労を惜しまず、身体を使う行為、即ち、紙の辞書を引き、鉛筆で、英単語、英文を書くという行為が、一見無駄、非効率的と思われても、実は、赤子の仕事が24時間のほとんどを眠るという行動にあることを、いっぱしの大人が無駄、非効率的なものとは、一切見なしてはいないようには、12才前後の少年少女には、アナログ的行為は、不合理的なものと目に映ってしまう実体は、地球温暖化に勝るとも劣らぬ危機であると叫ぶ者はマイナー派ともなりましょう。
 
 幼稚園に入る4歳以前は、寝ることが、自身の勤め、幼稚園から小学校低学年までは、遊ぶこと、野山を走りまわり、スポーツをすることでもいい、身体を、無思考の状態で全力で使い、日々を過ごすことが、仕事、そして、小学校高学年から中学校3年までは、アナログ主体で学びに励む、全脳をフル活用することを本義とする。そして、せめて、高校生から、デジタル方式の学びを取り入れて、勉学に精進することをモットーするということは、弊著『反デジタル考』の全体を覆ってもいる通奏低音であります。

 

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