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甲子園球場が"聖地"の理由

 8月25日の『情熱大陸』(TBS)を観た。この番組は、人間にクローズアップするものだが、珍しく野球場を取りあげた回である。建てられて100年目の“聖地”甲子園という特集だった。
 この野球の聖地、甲子園というものが、そこで働く人々の“甲子園愛”にどれほど支えられているか、そして、“変わらないように変えてゆく”、真のレトロ、アナログの真髄といった手本・鑑のような存在でもある。

 プロ野球ファンによるアンケート調査だと、よい球場のランキングは、まず、この甲子園(高校野球)や神宮球場(大学野球)、そして、横浜スタジアムや広島球場など、屋外のものが、上位を占める。そして、ドーム型の近代的な球場は、全部が7位以下になる。甲子園や横浜スタジアムなら浜風にあたり、ビールでも飲みながら、時には、合羽を被って雨天試合を観戦する。この球場の情緒・風情といったものが、観客にはたまらないのである。

 それも、屋外球場で、日本最古の、この球場は、他の球場とは根本的に異なる。それは、別格の阪神園芸という、グランドキーパ―が、この聖地の、特に、土のメンテナンスに細心の、最善の配慮をしている点で、群を抜く。球場の土の質という側面で、恐らく世界一でもあろう。それだけでなく、外野の芝生も夏芝と冬芝のハイブリッドで、一年を通じて青々と外野手の守備に、そして観客の目に、それぞれ快適感を与えてもいる。グランドが、生き物のように、阪神園芸の人々に整備されてもいる点でも、その配慮は、赤子、幼児を育てる母親の如きものを感じてしまう。事実、この会社で働く人々は、元甲子園球児が多いともいう。憧れの聖地で働きたいという若者が、この阪神園芸に就職するそうである。他の球場であれば、このようなことはまずない。

 日本はアメリカに比べて、6月から7月にかけて、特に、雨が多い、そのため、東京ドームを皮切りに、日本のプロ野球球団の半数以上は、ドーム型球場になった。西武球場すら、屋根付きになった。そのため、そうしたスタジアムは、すべて人工芝である。第一の理由は、整備が簡単であることが挙げられる。

 この甲子園、内野は、手に手を加えた、それも、高校球児の夏春の大会は、マウンドは柔らかく、プロ野球の試合では、硬く整備しているとのこと。この聖地の土は、どれだけ阪神園芸の人たちにより、まるで生き物のように、大切にされているか、それは、世界一にその名がとどろく、日本庭園ランキングで、21年連続日本一を維持している、島根県の足立美術館の庭師の如しとさえいえるものである。高温多湿、それも雨の多い風土の球場であればこその、甲子園の土への最大限のメンテナンス、配慮、いや、愛情が漲ってもいる。
 この甲子園、日本中の高校球児が、自校のグランドでノックや打撃練習する、その条件・状況の延長線、それも、理想形が、彼らの夢の舞台にもなっている。これが、室内、しかも人工芝といった環境なら、自身の学校のグラウンドで鍛錬してきた技量・技能が、発揮する場とは不具合ともなりかねない。高校球児の日ごろの練習の場とリンク、連綿とつながってもいる球場である点が見逃せないのである。よって、彼らは、この聖地の土を持ち帰るのである。これは、阪神園芸の人々の野球愛の象徴でもある、そのオーラが球児たちにそうさせてもいるのだろう。

 この甲子園球場の、最大の魅力は、現場でプレーする球児が、放課後に練習しているグランドの理想形が、そこにあることが、この聖地であることの最大の由縁でもある。阪神で長年ショートを務めた鳥谷敬が、怪我無く、現役を全うできたのも、この土のグランドがあったからだとも語っていた。屋外でも、横浜スタジアム、明治神宮球場なども人工芝である。内野は、日本最高の土のグランド、外野は、一年中青々とした夏芝と冬芝のハイブリッド、こんな、ハイテク・効率性・利便性重視の21世紀にあって、建設当時の1924年当時のままの、いや、戦後の現在の甲子園の<土・自然芝>の“レトロ感あふれる”球場を保持している場所はない。だから、この甲子園だけは、決してスタジアムなどという言葉には値しない、むしろ、不釣り合い、似合わしくないのである。
 では、この甲子園球場と他の球場・スタジアムを比較した場合、これから教育は、この“甲子園”に何を学ぶべきか、いや、塾や予備校といった教育産業は、どうあるべきかを次回語ってみたい。(つづく)
 


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