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紙の辞書では、何がお薦めか?

 前回は、電子辞書と生徒との関係性に立脚して、その是非を論じてきましたが、今回は、紙の辞書に関して語ってみたいと思います。それは、常日頃、生徒、ご父兄から、「では、先生は、どんな辞書をお薦めですか、教えてください」と質問を受けた経験から、それを少し、説得色が強まる観点から申し述べてみたいと思います。
 そもそも、電子辞書を中学生は勿論のこと、一般の高校生にもお薦めしない、影の最大の理由は、そのソフトが大方(80%前後)、大修館書店のジーニアス英和辞典がもとになっている点に尽きるのです。世の電子辞書の国語辞典のソフトが広辞苑になっている比ではないと思います。このジーニアス英和辞典が、一種、“ブランド的”・“カリスマ的”英和辞典ともなっていて、カシオやシャープなど、そのソフトを、一斉にジーニアス英和辞典にしてしまっている点こそが、私の辞書観から、納得できないビジネス・トレンドなのです。
 私立の中高一貫校では、新中学1年生などに配布するプリントで、お薦め辞書の欄にこのジーニアス英和辞典が載っているのをとても目にします。この、安直な、無責任ともいえるその学校の英語科の方針というものに、黙っていられず、教室でも、その生徒や親御さんに語る内容ともかぶりますが、これからその論拠というものを述べてみます。
 例えば、塾・予備校というジャンルでは、中学入試対象の塾{サピック・日能研・四谷大塚}、主に県立高校入試対象の塾{ステップ・中萬学院・臨海セミナー}、そして、大学入試対象の予備校{駿台予備校・河合塾・代々木ゼミナール}、こういったものがあるかと思います。しかし、その中学生が母集団の塾{中萬学院など}でも、小学生が私立中学受験のコースを設けているものが多々見受けられます。でも、そのコースなんぞは、大して優秀な生徒も来ませんし、さほど優れた授業なども行われてもいません。では、大手の予備校{駿台予備校など}が、勿論、資本の巨大さも与り、中学生対象のコース{主に中高一貫の生徒で、SEGや平岡塾では尻込みする生徒}、更に、小学生対象の講座{有名私立受験生を囲い込む目的}も当然存在しています。一般に、世のブランド志向の強い親御さんは、盲目的に、駿台の中学受験コース、また、私立の中学生が、駿台の中学生対象の英語・数学講座に足しげく通われている光景をよく目にします。これなんぞも、大手の予備校が、上から下へ、受験範囲の取り込みを狙い、勢力拡大をビジネス上行っているにすぎず、大した授業ではないと断言できます。個人的ながら、私の中学受験勉強は、6年生から、始めたわけですが、中学受験の情報など疎い父は、代々木ゼミナールの中学受験の或る講座に通わせましたが、教室内は、100名近く、授業も一方通行で、ほとんど理解できず、無駄になったという経験があります。今般、代々木ゼミナールは、少子化の波に飲み込まれ、大学受験予備校の領域から撤退し、サピックスを傘下に治め、中学受験に専念するビジネス方針にシフトしたようです。これは、河合塾や駿台が、中学受験でほとんど手薄である部門を強化し、大学受験でその二者(駿台・河合)に敗北したリベンジをする本音も透けて見えてきます。サピックが、幼児教育産業に関与してきた、地頭のいい幼稚園児を囲い込むものと、教育ビジネス的相似関係が透けて見えてきます。
 では、これを、小学校から大学まである学校法人なるものを概観してみますと、世間で成功している私立の中高一貫校も、同様です。男女の超進学校の御三家には、大学がありません。6年間勉学の緊張感で学力がある意味向上するのです。私立のフェリスや白百合も、学力優秀な女子が外部に流失し、その上の大学へは行きません。逆に慶應も似たような現象を引きおこします。本来は大学がメインであるにも、幼稚舎、中等部、普通部という附属校があります。そして大学と、高校、中学、そして小学校と学年を下るにつれて、のびのび教育、一種、これこそ、成功している“ゆとりの教育”{※これは、ある程度の裕福という必要条件があればこそ成功しているケースで、一般の公立校では、成功しません}がなされています。ですから、中学受験で、慶應中等部と浅野中学、また、慶應普通部と海城学園が両方合格しても、将来、息子を医師にしようとか、国立大学の東大、一橋、東工大など、知的中だるみ{6年間ある意味勉強が生温くなる}を嫌う親御さんは、後者を選択すると言われています。芦田愛菜などは、芸能活動優先、そして、‘芸能活動’可でもある、女子学院を蹴って、附属の慶應に進んだ稀なケースです。
 スポーツや音楽の幼少時代、そして、中学以上の道具や楽器も、それに適った子供用のグラブやラケット、そしてヴァイオリンなども当然存在するのです。
 やはり、餅は餅屋とはいいますか、小学生対象で成功を収めた塾高校受験でのし上ってきた地元密着型の塾、そして、高度成長期、ベビームーマー世代で、台頭してきたマンモス予備校これらは、そのノウハウがあり、そのノウハウは、初等教育、前期中等教育、後期中等教育とでは、おのずと、効果は強弱があって仕方ないのです。いわゆる、いい意味での棲み分けがなされてもいるのです。武士が貴族になろうとしても不自然さが伴う、貴族が武士になろうとしても無理がある、庶民(商人・農民)が武士になろうとしても、相当な努力と運というものを必要とする。また、スーパーで成功を収めたダイエーやヨーカドーがデパートに進出しても、うまくいかなかったビジネス事例、デパートが庶民派スーパーに手を出せない所以も同じ構図があるわけです。
 私の、小学生から高校生まで教えた経験、そして、私の塾の、数少ない講師の方に、余談で、その生徒のメンタルを考慮して教えるようにアドヴァイスする際の、心得マニュアルとも申しましょうか、そのコツとやらは次のようなことなのです。
 小学生低学年には、楽しくやりましょう。小学生高学年には、面白く教えましょう。中学生には、何かためになるぞと自覚させるように教えましょう。そして、高校生には、知的に教えましょう。このような、高校生でも、メンタルが幼い生徒、中学生でも、メンタルが熟している生徒、これらを考慮して、英語なり教えてくださいと申し伝えているわけです。
 そこでですが、本題に戻るとしましょう。
 ターゲット単語集(旺文社)が、今日本で一番売れている単語集ではないかと思われます。これなんぞも、中学生レベルのもの、いわゆる1200から、1400、そして1900単語集(これが一番売れている)と様々なレベルで出版されてはいますが、1900だけがダントツの売り上げは、疑いのない事実です。前者2つを合わせても、1900の部数には敵わないでしょう。これぞ、駿台高等部のみと、駿台小学部や駿台中学部のコースの生徒数の歴然の差というものです。これは、通信添削も小学生から中学生までは、ベネッセのテリトリー、高校生は、増進会の独断上です。幼稚園児から小学校3年までは、いわば、将来の東大生の卵の孵卵器の役割をする公文式、でも、4年以上になると、サピックスや日能研に鞍替えする現象と全く同じ現実が、この受験単語集にも言えるのです。ターゲット単語集は、1900という、まず最初にありきの単語集が信頼されています。駿台高等部のみが信奉され、それ以下は、あまり小学生や中学生に考慮されてはいないのに似ています。
 このターゲット単語集、駿台予備校と同様の販売現象、受講現象なるもが、実は、ジーニアス英和辞典にも該当するのです。この大修館書店から出されている、ブランド的辞書は、その商機を狙ってなのか、ベーシック・ジーニアス英和辞典(中学生向け)、ヤング・ジーニアス英和辞典(高校生学習向け)が出されていますが、売れ行きは、ターゲット単語集と同じ現象を見ます。初めにジーニアス英和辞典ありき、そして、下へ、中学生対象、高校生前期へと、降りてきた、駿台予備校の囲い込み教育産業の手法と同じものが透けてみえるのです。ですから、ジーニアス英和辞典なるものは、一種、出来る高校生や大学生・社会人向けの辞書だと断言でき、中学生は、勿論、英検2級ぎりぎり合格組の高校生には、不釣り合い、また、不適応なソフトだと、私の個人的見解で申し上げているまでです。
 これは、私の塾の高校生にも言っていることですが、英単語集は、高校3年間は、1冊で済まそうなどとうぬぼれた考えを捨て、身の丈に合った単語集を段階的に数冊用いなさいとアドヴァイスをしています。それも、それぞれ違った出版社のものを敢えて使うように指示してもいます。
 私の教え子に関してのケースですが、私立の中高一貫の進学校、例えば、S学園(早稲田に60名前後合格するレベル)、TTT高校(早稲田に40名前後合格するレベル)、AYE学院(早稲田に3名前後合格するレベル)などでは、無謀にも高校1年から、このターゲット単語集1900を覚えさせる小テストを課していると聞いています。恐らく、高校1年から、このハイレベルな単語集を無理やりにでも生徒に押し付ければ、否が応にも、高校3年の段階で、7~8割は覚えてくれるだろうという希望的・楽観的観測の教育指導法としか思えない、理不尽な、一種、小学校で野球もやっていない少年に、公立中学の部活の軟式野球を飛び越えて、全国大会に出場する、それも大阪桐蔭や横浜高校にスカウトされる中学生がうようよいるリトルリーグに入れて、練習させるのと考えと同じものを感じてしまうのです。
 実は、この単語集に関する関係性と同じ、手順といったものが英和辞典にも言えるのです。
 世のファッションにプチうるさいお母様なら、おわかりかと思いますが、幼児から小学校低学年くらいの坊ちゃんには、ファミリアの服を着せ、小学校4年くらいから高校生くらいまでは、トラッドでは、ラルフローレンやJプレスなどをあてがい、大学生になって、本人の好みで、紳士服の青山から高島屋・伊勢丹の高級スーツまでしつらてあげるように、辞書にも、中等教育の6年間では、3冊使用するようにアドヴァイスしてもいるのです。中学1年から2年くらいは、カタカナの、日本語読みの発音がついている初等辞書を薦めています。発音記号が読めるようになる、中学2年後半くらいから、学習向け英和辞典を推奨してもいるのです。この段階では、ジーニアス英和辞典などもってもほかです。幼稚園児や小学1年にブランドのラルフローレンを着せるようなものです。勿論、これは、ファションに関してなので、ほとんど問題はありません。母親の好みを子供に押し付けているに過ぎぬからです。でも、これが辞書ともなれば、猫に小判、豚に真珠とあいなるのです。実は、この身分不相応な学習行為・姿勢とあいなるのです。大方の中学3年から高校2年くらいまでが、学習向け辞書、別途詳しく述べますが、ライトハウス英和辞典(研究社)やスーパー・アンカー英和辞典(学研)など最適なのです。これも電子辞書否定の根拠にもなりますが、そのソフトでは、学習向け、中級レベルの英和辞書が採用されていない点が一番の問題でもあるのです。ですから、我が子に、我が生徒に、たとえ紙の辞書であっても、ベーシック・ジーニアス、ヤング・ジーニアス、そしてジーニアスと、同じ大修館書店のものを使用するのは、塾では、小学校から、中学を経て、高校まで、すべて駿台に通うことと同じであり単語集でいえば、中高一貫の6年間で、1200、1400、そして、1900を持いることの同じ学習上の、私流に言わせてもらえば、不自然さ・非合理さ・非効率さ、こうした勉学上の見えない空気のようなものが、その生徒を覆ってしまうということなのです。勿論、この観点に、異議なり、反論なりある親御さん、生徒さんには、そうすることに一々口を挟むつもりはありません。これは、私の経験則から生まれた仮説を、毎日、10名前後の生徒を、臨床医の様に、検証して得た、恐らく、世の60%前後の標準的な英語学習者に適応可能な、辞書使用の“定理(マニュアル)”といったものなのです。
 ですから、中学前半は、クラウン初級英和辞典(三省堂)・ジュニアアンカー(学研)、中学後半から高校2年くらいまで、ライトハウス英和辞典(研究社)やスーパーアンカー英和辞典(学研)、フェイバリット(東京書籍)あたりを推薦してもいるのです。そして、高校3年以上でも、私は、英語が出来る生徒であっても、敢えて電子辞書ではなく、紙の辞書、それもジーニアス英和辞典ではなく、ルミナス英和辞典(研究社)オーレックス英和辞典(旺文社)、また、レクシス英和辞典(旺文社)などをリストアップして、その3冊から自身の好みに合う辞書を選ばせてもいるのです。
 こうした辞書をどうして、推薦するか、その根拠や背景などは、英精塾の内部生の、≪辞書の閻魔帳≫ならぬ、「英和辞典推薦リスト」に、辞書の採点表をつけ、また、その辞書の高校生にとっての長短をコメントしてあります。そこでは、当然、ジーニアス英和辞典の長所や素晴らしさにも言及していますが、この場では触れません。その小冊子を、教え子たちに配布しています。本来の目的とは相当ずれるし、紙面が足りないので、その内容にまでは敢えて踏み込みません。
 以上からもお分かりのように、英単語集塾・予備校子供にあてがう服などが、その学年・年齢にあったものがあるように、紙の辞書にも、そのレベルにあったものがあるという、到って自然な学習上の“定理”に盲目な人があまりに多いため、本来ならば、英精塾の生徒、そして、その親御さんに語るような内容のことを今回は、申し述べてみたのです。今回の内容をお読みいただけたことからも、それこそが、前回コラムで語った電子辞書を高校生に薦めない影の最大の根拠にもなっているのです。

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